偽ジレンマ。

俺は頭に来て、ついその山羊の娘に言っちまったんだ。「俺が嘘吐きだって? この野郎、2度と嘘吐き呼ばわりしやがったら、おまえを頭から食ってやる!」ってな。俺は嘘だけはつかないように生きてきた。それだけが誇りだったんだ。頭に来て、そいつの息子を抑える手にも力が入っちまうってもんさ。
そうしたら、その山羊の娘は震え上がって「ヤメテ! どうか息子を食べないで下さい!」って言うんだ。呑気なもんだぜ。自分の娘が食われるかもしれないんだぜ? 自分の力で取り返してみろよってんだよ。
だから俺はまたカッとなって言ったのさ「五月蝿い、こいつを食べてやる!」ってな。本当にカッとなっちまってた。どうかしてたんだ。別に、山羊の娘に俺の食事を邪魔されたくはないし、こいつに嘘吐き呼ばわりされても、俺の腹には何の影響も無かったっていうのに。


一時間後、俺はきっちり娘を胃袋に納めて息子を放してやった。


まぁ、嘘吐き呼ばわりされるのは癪だったが、あの娘は自分で息子を守ったんだなって思うと、悪い気はしなかったさ。それにしても、山羊ってのも根性座ってるもんなんだな。


「この嘘吐き野郎メ〜!」って、中々言えるもんじゃないぜ、あの状況でさ。