小説風リハビリ

手を差し伸べられないのは悲しい
でも
差し伸べた手を払われるのは
もっと悲しいことなんだよ


僕はそう言って、彼女の泣き止むのを待った。
彼女はひとしきり無音で、でもとても悲しそうな仕草で泣いた後に、縋るような目で僕を見た。
僕は衝動的になって、でも出来るだけ素っ気無く無造作になるように唇を彼女の唇に押し付けた。
僕は彼女の唇に舌を入れ、そこから全てを舐めとって僕の胃に納めてしまいたい欲求を抑えるのに苦労した。
でも、必死に目を閉じてキスに応える彼女の唇はとてもささくれていて、僕は居た堪れない気持ちになる。何時ものこと。そう、何時もの欲求と何時もの何だか途方に暮れたような気持ち。
すぐに唇を放して、もう帰らなくてはいけないことを伝えた。これも何時ものこと。
彼女はまた縋るような目をして、でもまたすぐに目を伏せて、小声でありがとう、と言って小走りで去っていった。
僕は唇を無意識に舐めていた。
それは彼女の薄っすらとした血の味と僕の得体の知れない心境が入り混じったが故の興奮に満ちていた。