やみもなお。

春は、真昼が好きだ。寒さも暑さも、温度に関する事なら涼しいとも暖かいとも思わなくなるような温度で、芝生の上。日光が鬱陶しいなぁ、なんて思いながら自然と湧いてくる笑顔、あれは最高。で、木陰に行ってさ、ごろっと、服が汚れるのも気にせず寝っ転がって、もぞもぞポケットから煙草出して、寝相の悪い奴みたいにもぞもぞ左右に身体を振りながら、生きてて生臭いとさえ言える芝の匂いを嗅いで煙草を喫うんだ。
夏は深夜だね。暑さで寝付けなくて、網戸を開けてやっぱり煙草を喫うんだけど、時折闇から聞えてくる餓鬼とかオッサンの叫びとも何ともつかない大声とか、響き渡るサイレンの音とか聞いて、何かそう、狂ってる感じの余韻がこちらにまでガツンと来るのが良いね。夏って、音が大きく感じるんだよね。餓鬼とかオッサンばかりじゃなくて、空気も狂ってんだよ、多分。
秋は夕暮れが良いわ。何か、太陽が「疲れたわー」っていう感じでぐだーっと地面に堕ちる感じが何ともいえない。ビルとビルの間の日陰で、人ごみに疲れて煙草を喫ってると、目に優しいんだけどしっかりと刺してきやがる橙色の光に目を細めている俺っていうシーンに自分で酔えるのは、あの季節だけだな。
冬ってのは、早朝が好きだったなぁ。完璧に明け切ったばかりの、傷に沁みそうなくらい寒い日に、雲1つない薄い青空。窓から道路を見て、走っている車を見下しながら煙草を喫うんだ。そして、時折見上げる空、それが好きだった。凄くたまに歩いている奴なんか目にするんだけど、全員が全員、身体中に傷があるかのように痛々しい顔で、大事そうに何かを抱えているように縮こまって歩いているんだ。それを見ながら、暖房もつけず、窓を大きく開けて、煙を吐くんだ。で、喫い終ったら何事もなかったかのように窓を閉めて、俺も痛々しい顔で外を歩くべく、トースターに食パンを突っ込むのさ。
さて、パンも焼けた事だし、コーヒーでも淹れて、食後に煙草でも喫って出かけようぜ。どの季節かに、さ。