ドレッシング

僕は凄い怖がりでしてね。
ふと嫌な予感がして振り返ってみると幽霊が居るんじゃないかって、ガクガク震えて生きているような奴でして。
で、今日も夜中に眼が醒めて、こりゃいよいよ御目に掛かる日になるんじゃないかって、そう思ったんですが、ただそれだけで震えが止まらないんです。
しかも、そういう時に限って小便がしたくてしたくて仕方ない。
何回も逡巡したんですが、時間が経つにつれておっかなびっくりが生理的なもんには勝てなくなって参りまして、一代決心で布団から出たんです。
するとやっぱり、廊下を歩く度にギシーッ、ギシー……ッて嫌らしい音が鳴ったりしやがるともう僕は居ても立っても居られなくなりまして、振り返ってみたんです。
すると、やっぱり何も居ませんでね。
ホッと一息ついてまたギシーッ、ギシーッと歩いていますとまた何か後ろに居やがるんじゃねぇかって気持ちになってきまして。
また居ても立っても居られなくなりまして、振り返ってみたんです。
すると、やっぱり何も居ませんでね。
溜息を大きくやりまして、この臆病めって自分を叱咤してまたギシーッ、ギシーッと歩いていますと本当に今度こそ居やがる気になってきたんですよ。窓から隙間風がビュウ!衝立がギシギシって鳴りますと今度こそって気になるじゃありませんか。
また居ても立っても居られなくなりまして、振り返ってみたんです。
すると、やっぱり何も居ませんでね。
ええいもう、好い加減にしやがれって自分の頭をゴツゴツと叩きながらまたしても真っ暗な廊下を歩いていったんです。ギシーッ、ギシーッってね。
そうしたらいきなり、ガンとぶつかってくるもんがあるじゃありませんか! 僕はもうビックリしちゃってひいいいいいなんて恥ずかしい声だしながら尻餅ついたんです。
すると身体の芯まで怖がっちゃってカッと熱くなったんです。
ちょっとしたパニックってところですぁあね。必死に抜けた腰で這ってでも逃げようと思うんですけども、どれだけ這っても進んでる気配がない。こりゃいよいよ物の怪の仕業に違いないってんでまたしてもひいひい言って怯えていたんです。
すると、何だかびちゃびちゃと嫌な音がするんで、床を手でこう触ってみますと、びっしょりと濡れてるんですよ!
もう何が何だか分からないままただ怖くって怖くって、思わず

ぎああああああああああああああああああああああ!


って言ったから、七月六日はサラダ記念日。